旅に出る前に読むエッセイと物語

旅: 準備編

「旅のエッセイや小説を読んで旅に出たくなった」という話はよく聞きますが、僕は逆で旅に出る前にそれに関連した(或いは関連しない)エッセイや小説を読みます。

「読みます」と書くと普段からちょくちょく旅に出ている人っぽいですが、それは大嘘で、僕がこの記事を書いている時点では旅に出たことなど一度たりともありません。

僕は基本的に音楽と旅を軸としたブログを作ろうと思っていて2ヶ月ほど過ぎました。音楽系の記事は伸びて来ているのですが、旅系の記事はまだそもそも出発してないこともあり、殆ど見られていません

記事数が音楽と比べても全然少ないです。下の様に苦し紛れに旅出発前の記事を書いたりはしていますが….


そんな感じの僕ですが、本はジャンルを問わず(←こういう発言は大体嘘であるが発言する本人はその嘘に気づいていないことが多い)よく読みます。そこで、今回は僕が個人的にオススメな、旅関係(或いは関係のない)本を紹介していきます。

おすすめの本

若き数学者のアメリカ(藤原正彦)


僕が著者の本を初めて読んだのは、これではなく、「心は孤独な数学者」でした。


大学の図書館で数学関係の読み物にハマっていた時に見つけた本です。これは、ニュートン、ハミルトン、ラマヌジャンの3人の人生のお話です。文章がとても上手く、おそらく本を殆ど読んだことがない人でもスッと入っていける様なお話です。

特に僕が何回も何回も読み直したのは、アイルランドの数学者、ハミルトンのお話です。

ハミルトンは、19歳の時、1歳年下のキャサリンに人生で初めて恋に落ちました。二人は相思相愛だったものの、ハミルトンがキャサリンに出した詩が恐らくキャサリンの父親の目にとまり、キャサリンを強引に中年の資産のある牧師と婚約させてしまいます。

十九歳のハミルトンはすっかり打ちひしがれ、絶望の余り病気がちとなる。長い鬱状態にあったこの一年間は大学での成績もふるわなかった。天文台長ブリンクリーに会いに行く途中、自殺の衝動にまで駆られた。と後に告白している。思いとどまるだけの自尊心はどうにか残っていたものの、キャサリンとの失恋の傷は、終生癒えぬまま彼の人生に影を落とすことになる。

藤原正彦 「心は孤独な数学者」


この失恋から7年経った26歳の時、ハミルトンはエレンという女性に恋をします(7年て結構長い様な)。その後ハミルトンはエレンに出会ってからわずか数ヶ月で、求婚しにエレンの元へ駆けつけます。

しかし、結局求婚することなく、夢は散っていきました。

ところが、エレンがふと、「クラー以外では楽しく暮らせそうにもないわ」と言った瞬間、ハミルトンはこれを拒絶と解釈し、あきらめてしまったのである。そしてまた、失恋の詩をいくつも書いたのである。エレンやその家族は、拒絶した覚えはないから、その後自宅にハミルトンを招待し、彼も数日間そこに泊まった。チャンスだったが、それでも彼はエレンに求婚しなかった。

藤原正彦 「心は孤独な数学者」

この様なハミルトンの態度に共感できる人もいるのではないでしょうか。本人にとってはさりげない、ちょっとした一言でも、そこから言葉以上のものを受け取り、自ら離れていってしまうのは僕も共感できます。

この二度目の失恋の後、ハミルトンはヘレンという名の女性と結婚しますが、その結婚生活は幸福なものとは言えず、ハミルトンはアルコールに溺れ(それでも数学的な大発見を為した)、ヘレンはハミルトンの良き理解者とは言えませんでした。

この失恋と不幸な結婚生活だけでも、様々な思いが沸き起こって来ますが、このハミルトンの物語で最も感動的なのは、キャサリンとの再会です。

ハミルトン四十八歳の時、彼はキャサリンからの贈り物を、その兄からもらう。包みを開くと、鉛筆ケースが入っていて、その表にこう書かれていた。

「あなたが忘れてはならない者、冷たくしてはいけない者、そしてあなたにもう一度会えたら満ち足りた気持ちで死んでいける者より」

ハミルトンは彼女のもとに駆けつけた。
キャサリンは死の床にいた。他人の妻に会うという、当時にあたっては罪を問われかねない危険を冒して、彼女を見舞ったのである。暖炉のそばのソファに運ばれ、力なく横たわる彼女に、ハミルトンは跪き、「私の生涯をかけた仕事です」と言い、『四元数講義』を捧げる。立ち上がった彼の手を取り、キャサリンはそっと唇を押し当てる。そこで二人は、生まれて初めて、静かに唇を合わせる。

藤原正彦 「心は孤独な数学者」

ハミルトンとキャサリンは、初めての出会いから30年経って、初めて結ばれます。しかし、結ばれても、共に生きていくことは出来ませんでした。この出来事の二週間後にキャサリンが世を去ったのです。

この、小説世界の様な物語と、それを語る著者の力量を、読むたびに実感させられます。

ハミルトンの話も、いきなり本題に入るのではなく、まずはアイルランドのことと、著者がアイルランドを訪れた時の事をユーモアなどを交えながら書いて(IN,現実世界)、ハミルトンの数学と恋愛の物語的世界へ入っていき、そして最後は再び現実のアイルランドに戻っていきます(OUT,現実世界)。

この様な流れがあると、人はスムーズにその世界に入っていけるのでしょうか….

エッセイや小説には文章を各ヒントが沢山転がっています

と、「若き数学者のアメリカ」を紹介するはずが、別の本の紹介みたいになってしまいました。本題に戻ります。

僕が今年(2019)の夏行くのは東南アジアで、アメリカではく、またこの本は旅行記ではなく、アメリカの「滞在記」となっていますが、この本には旅をする上でのヒント(主に人間関係)が所々にあり、参考になります。

また、所々に出てくる著者の日本への愛が捻れた形で出てくるのも個人的には好きです。著者は数学者ですが、こういうエッセイでは数学の話が割と出てくるものの、数学が解らなくても話は十分楽しめます。

深夜特急 沢木耕太郎

これは「旅に出たくなる系」な本としてはかなり有名な部類に入るのではないでしょうか。

この本は、1970年代、当時26歳だった著者がインドのデリーからイギリスのロンドンまでを、バスだけを使って一人旅をするという目的で日本を飛び出した時の物語です。やや昔の話ですが、それがかえって旅に出たいという意欲を掻き立てます。

著者は、マカオで大小というサイコロ賭博に惹かれます。旅の物語ではしばしばこの様なギャンブル関係の話が出て来ます。先ほど紹介した「若き数学者のアメリカ」でも、序盤で著者がラスベガスのカジノへ行き、$300(当時のレートでは約10万円)を擦ります。

こう何回もギャンブルの話が出てくると、読んでる僕としてもギャンブルをやりたくなります笑それでベトナムやラオスのカジノについて調べましたが、年齢制限があり、21歳以上とのこと…旅先で二十歳を迎える予定の僕には縁のない話でした…

この「深夜特急」は、80,90年代はバックパッカーのバイブル的存在だったらしいですが、今読んでも全く色褪せていません。

旅に出るのなら、一度は読んでみるといいかもしれません。

旅の前の準備として

以上、2冊のみ(3冊…?)の紹介になってしまいましたが、是非読んでみてください。旅の準備としても役立ちますし、旅の最中に読むのもいいと思います。旅をしながら他の旅を読むというはずっと僕が憧れて来たことです。

今年やっと、それが実現できそうです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました