前回 :
初心者講座の第四回ということで、今回はマスタリングについてお話していきたいと思います。
マスタリングは、以下の四つの音楽制作の過程の一番最後の仕上げとなります。
- 作曲
- 編曲
- ミックス
- マスタリング
マスタリングとは簡単に言えば、音質の最適化です。3つ目の工程であるミックスが終わった段階では、聴く媒体によって音質が著しく異なります。
「このスピーカーで聴くと音がこもっている...」「このイヤホンで聴くと高音がうるさい」などなど...
こういったものをなくし、あらゆる再生システムにおいて最適な音が出るようにする工程、それがマスタリングです。
つまり、低音重視のヘッドホンなら低音が響いている必要がありますし、バランス重視のヘッドホンなら高域や低域が出過ぎててはいけません(特別な意図がなければ)。
そんな感じで音質を最適化するのがマスタリングです。一方、同時に音量も劇的に変化します。
今回は都合上、FL Studio 20にあらかじめ入っているAsher Postman - Future Houseで解説していきたいと思います。
EDMマスタリングのやり方

では早速解説していきます。Asher PostmanはYouTubeチャンネル登録者数が25万人を超えているプロデューサーです(2020年3月時点)。
そんな彼の曲がFL Studio20のデモソングとして取り上げられているので、それを使って解説していきたいと思います。
まずはマスタリング前と後の状態を聴き比べてみましょう。
BeforeからAfterまでどのような手順を踏んでいるのか、一緒に見ていきましょう!!
それではマスタリングの手順についてお話していきます。
STEP1-1 : 良いミックスを作る
良いマスタリング結果を得るにはミックスが良い事が必要条件です。悪いミックスはマスタリングでいくら処理しても治らない事が多いです。
なので前回のお話をもとに、まずは良いミックスを心がけましょう。
何が「良いミックス」なのかは、はじめは分かりづらいです。なので既存の曲をたくさん聴き、それを自分のミックスと当てはめていきましょう。そうするとそのうち「低域が出てないな〜」とか、「高域が少し耳障りだな〜」、「全体的にスカスカ/モコモコしている」というのが分かるようになってきます。それまではひたすら量をこなしていきましょう。
良いミックスが出来たら、次にマスタリングチェーンを考えます。
STEP1-2 : マスタリングチェーンを考える

ミックスを聴き、それに何の処理をしていくかを考えます。上の画像はEQ、マルチバンドコンプ、マキシマイザー、リミッター、Ozoneの順番で刺さっています。
この、マスタートラックで使用しているエフェクトとその順番の事をマスタリングチェーンと呼びます。
マスタリングチェーンはプロデューサーや曲ごとに異なる場合が多いです。今回はオーソドックスなものを用いて説明していきます。
STEP1-3 : リファレンストラックを用意する
準備段階の最後として、リファレンス曲(参照曲)を準備します。これは今自分が作っている曲と似たものを準備するのが普通です。
1曲だけでなく、数曲用意しても全然構いません。それらと自分のミックスを聴き比べて、相対的に処理していくとマスタリングの方向性が分かりやすくなると思います。
ただし、今回は便宜上リファレンストラックは設定しません。ご了承ください。
STEP2 : EQ
まずはEQを最初にかけてみましょう。。。といっても、今回使うトラック(Asher Postman - Future House)ではEQがかかっていません。ですが基本的にかける事が多いので解説していきます。
ミックスを聴いて、欲しい帯域や少し削りたい帯域を特定し、EQをかけていきます。試しにEQのあるなしで比較してみましょう。
...違いがわかりましたか? EQなしの方がオリジナルで、EQありの方は僕が勝手にかけたものです。
実際にかけたEQはこんな感じです。

分かりやすいところでいうと、80Hz以下のところを2.5dbブースト、7000Hzより上のところを2.8dbほどカットしています。画像を見るとほとんど変化していないと感じるかもしれませんが、これでも音の違いが分かりやすくするために少し大きめにカット、ブーストしました。
DTMを長い間やっていると、0.5dbのブーストやカットだけでも違いが分かるようになってきます。今は分からなくて良いのですが、とりあえず重要なこととして「パラメータは大きく弄らない」というものがあります。よく言われるのが3db以上はブースト、カットしないということ。人によっては1db以上も好ましくないと考える場合もあります。
ちなみに、上で使ったEQは目盛が小さかったのでほとんど変化が内容に感じますが、これと同じのをOzoneで表現すると以下のようになります。

Ozoneは目盛が大きいので少量の変化でも視覚的にはかなり大きな変化に感じます。マスタリングをするときは目盛が大きいものを選ぶと良いでしょう。
EQの掛け方は個人の嗜好によりますし、一筋縄では行きませんが、既存の曲や人工知能を参考にして常に聞き比べながら最適解を探していきましょう。
STEP3 : (マルチバンド)コンプレッサー
コンプレッサー、あるいはマルチバンドコンプレッサーを使用します。普通のコンプレッサーは全帯域に対して平等に処理していきますが、マルチバンドの方は周波数を大抵3つくらいに分け、「低域はこの処理」「中域付近はこの処理」「高域はこの処理」みたいに別々に処理していきます。
今回のトラックではFL Studioに付属している以下のマルチバンドコンプレッサーを使用しています。

それでは解説に入っていきます。
まず画像の左側に注目してみましょう。左下にGAINがありますね。これで全体をブーストしています。値は3.3dbでした。
左下のGAINの右側に4つツマミがありますね。これを使って帯域を3つに分けます。一番左が低域で、今回は162Hz以下で区切っています。
真ん中の2つは中域です。今回の設定では162Hz〜5304Hzで区切っています。
最後の高域は6302Hz以上に設定しています。
それを踏まえて右の3つ(順に低域、中域、高域)の説明をしようと思うのですが、これは正直聴き比べてもほとんど違いが分からないと思うので、数値設定のコツだけ説明しようと思います。
実際の設定は以下のようになっています。
162Hz以下
- Threshold : -16.9db
- Ratio : 2:1
- Knee : 62%
- Attack : 55ms
- Release : 109ms
- Gain : 0db
162〜5304Hz
- Threshold : -9.0db
- Ratio : 1.7 :1
- Knee : 76%
- Attack : 22.1ms
- Release : 109ms
- Gain : 1.5db
6302Hz以上
- Threshold : -11.0db
- Ratio : 2:1
- Knee : 78%
- Attack : 1.1ms
- Release : 29.8ms
- Gain : 2.0db
まずRatio(圧縮比、圧縮率)は2:1くらいの低めに設定します。この数値が高すぎると圧縮しすぎてのっぺりしたサウンドになってしまいます。
AttackとReleaseは周波数が高くなるにつれて短い方が効果的です。高域でAttackが長すぎたりしても意味はあまりありません。
Thresholdに関しては場合によって大きく異なる可能性が出てきます。今回の場合、ミックス終了時の音量が大体-12〜-7dbだったのでその付近で設定しています。これを例えば-2dbとかに設定しても、-2dbを超える瞬間がないのでコンプをかける意味がありません。ご注意ください。
Kneeについてはこちらを参考にしてみてください。
STEP4 : EQ
2回目のEQです。ここもAsher Postman - Future Houseでは挿さっていません。僕の場合はGullfossのオートEQに全てを委ねています笑。
ここでのEQは必須ではなく、コンプなどをかけた事による変化が気になる場合に使う感じで良いでしょう。
STEP5 : Stereo Width
これも"Future House"では挿さっていませんが解説しておきます。
DTMをやっていて時間が経っていくと自分の作った曲に対して「真ん中に寄っている気がする」、「広がりが足りない」と感じる瞬間はきっとやってくると思います。
主な原因はミックスにおける音量バランスだったりするのですが、マスタリングの過程で音に広がりを持たせることは可能です。
MS処理と検索すると、DAWによっては付属のプラグインで音に広がりを持たせることが可能です。
FL Studioも不可能ではないですが少し質が劣るので、僕はOzoneのImagerとMSEQ Compを使用しています。
STEP6 : マキシマイザー
音量アップに最も貢献するプラグインの一つです。マキシマイザーは主に、基準値以上の音を圧縮し、それ以下の音は持ち上げる働きをします。そのため、ミックス段階でベースやキックが小さかったとしても、マキシマイザーをがっつりかければ大きく聴こえるようになります。
ただ、マキシマイザーは音を圧縮してパート間の音量差を小さくしていることを忘れないでください。音量差が小さいとダイナミクスが失われ、音がぺちゃんこになってしまいます。
そしてこのマキシマイザーですが、種類によってパラメータが全然違うので詳しい説明ははしょらせていただきます。
FL Studioをお持ちの方はMaximusというプラグインで"Clear Master RMS"というプリセットを選択してみてください。オススメです。

実際にClear Master RMSの有り無しで違いを確認してみましょう。
ご自身のDAWに付属しているマキシマイザーの使い方を個別に調べてみてください。音圧アップには欠かせない道具です。
STEP7 : リミッター
最後にリミッターです。これはよく、「Attackが0msでRatioが無限のコンプレッサーだ」という言い方をされます。
リミッターは主に楽曲を書き出した時の歪みを抑える働きをします。DAWにおいて、マスタートラックが0dbを超えると書き出した時にクリッピングと呼ばれる歪みが生じてしまいます。そのため、マスタリングチェーンの最後にリミッターを挿し、0dbを超えるのを防ぐのがセオリーです。
また、リミッターは通常、全体の音量を底上げするGAIN機能も搭載しています。"Futre Bass"の場合、リミッターの有る無しで音圧は以下のように変化します。
明らかに音圧が違うのが分かるかと思います。このようにリミッターは、音圧アップ+音量が基準値を超えないようにする2つの大きな役目があります。
最後に マスタリングを実践してみよう!
最後に、今回解説したことを踏まえて実際にマスタリングをしてみましょう!
前回の記事でミックス用のStemを公開しました。これをダウンロードし、ミックスをした後、是非一緒にマスタリングもしてみてください!